キング アーサーのここだけの話
寝ずに舟を漕ぐ
オーナーが海を指差して言った。
「シンならあそこだ」
「ああ、組み立て終わったんだ」俺の言葉に、ナタリーはすぐ反応した。
「組み立て?」
「ヤツはここに来ると初日はの夕方はいつも、ああやってボートで海に出て行く」
「ボートじゃない。あれはスキンカヤックだ」スキンカヤックがなにかも知らない俺は、オーナーの言うボートという名称を否定した。
「まあ、なんだっていい。前回の時も、その前の時もそうだった。ヤツは今夜、帰ってこないよ」
「帰ってこないって?」ナタリーはオーナーに尋ねた。
「体内時計を壊すためさ。一晩中、寝ずに海を漕いで、明日の夜に備えるんだとよ」
「なんのため?」意味がさっぱりわからず、オーナーに聞き返した。
「明日のフルムーンパーティがはじまるまで起きていられるように、今夜はずっと起きていて、明日の昼にたっぷり寝て、寝溜めするんだよ」
「寝溜めなんて意味がない」俺は医学的な観点から意見した。
「それはヤツに言ってやれ。でも体内時計が一時的に壊れることは間違いない。しかも明日のパーティがはじまるまで起きてられれば十分だ。はじまれば、一生寝られないほど、ヤバイものがある」とオーナーが笑った。
「なにそれ」と言ってナタリーも笑った。
続く
次回の話/笑顔のステキな女の子
前回の話/主人公は俺だ
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