LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
寝ずに舟を漕ぐ

オーナーが海を指差して言った。

「シンならあそこだ」

「ああ、組み立て終わったんだ」俺の言葉に、ナタリーはすぐ反応した。

「組み立て?」

 

「ヤツはここに来ると初日はの夕方はいつも、ああやってボートで海に出て行く」

「ボートじゃない。あれはスキンカヤックだ」スキンカヤックがなにかも知らない俺は、オーナーの言うボートという名称を否定した。

 

「まあ、なんだっていい。前回の時も、その前の時もそうだった。ヤツは今夜、帰ってこないよ」

「帰ってこないって?」ナタリーはオーナーに尋ねた。

「体内時計を壊すためさ。一晩中、寝ずに海を漕いで、明日の夜に備えるんだとよ」

 

「なんのため?」意味がさっぱりわからず、オーナーに聞き返した。

「明日のフルムーンパーティがはじまるまで起きていられるように、今夜はずっと起きていて、明日の昼にたっぷり寝て、寝溜めするんだよ」

 

「寝溜めなんて意味がない」俺は医学的な観点から意見した。

「それはヤツに言ってやれ。でも体内時計が一時的に壊れることは間違いない。しかも明日のパーティがはじまるまで起きてられれば十分だ。はじまれば、一生寝られないほど、ヤバイものがある」とオーナーが笑った。

「なにそれ」と言ってナタリーも笑った。

 

続く

次回の話/笑顔のステキな女の子

前回の話/主人公は俺だ

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最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。