LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
どこまでも遠浅の海

ほとんど波の立っていない、湖のように静かな海だった。

「どこまで行くの」ナタリーが尋ねた。

「とりあえずは、眠くなるまで進む」とシンさんは応える。

「眠ったら、帰れないじゃない」

「だから眠くなったら戻りはじめるよ」

ナタリーは心配そうにシンさんを見つめた。

 

スキンカヤックに跨り、シンさんは漕ぎ出す準備を進めていた。

「眠くなってから戻りはじめたんじゃ、遅いんじゃない」気の強そうなケイトが言った。

「じゃあ、日が沈む前に戻りはじめるよ」

「日が沈む前に、眠くなるってこともあるじゃない」ケイトは続けた。

「それもそうだね。じゃあ1〜2時間で戻る」シンさんは応えた。

 

「1〜2時間で眠くなったら?」ナタリーが小さな声で言った。

「どうにかなるよ」シンさんは静かに応えた。

「きっとどうにかなるのよ」穏やかそうなジュリーがナタリーの肩を抱いて言った。

 

どこまでも遠浅の海を、準備の整ったシンさんはスキンカヤックに乗らず、引っ張って進んで行った。

俺たちも見送るようについていった。

海は静かで波ひとつないが、時間が経つにつれ、陽気な気分と気だるさの波は入れ替わり立ち替わりやってきた。

 

続く

次回の話/アスタ・ラ・ビスタ・ベイビー

前回の話/お持ち帰りできるかも

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最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。