ヒツジ飼いの冒険
第33話 予言
ダチョウのリーダー格は大きく息を吐き、そして大きく吸い込んだ。
長い喉がはち切れんばかりに膨らますほど。
するとフクロウの鳴き声にも似た音を喉から出した。
どこまでも響き渡るような重低音を出し続けた。
ダチョウ一派だけでなく島にいるすべての鳥たち、いや、隣の島も含め、王国のすべての鳥たちにメッセージを送っているようだった。
ダチョウのリーダー格は音を出し続けたが、ダチョウ一派はリーダーを残し、町へと駆け出した。
リーダーの背中に乗っていたルカは大きく羽を広げ、その位置を変えずの浮くように飛んだ。
するとダチョウのリーダー格も一派に追いつこうと走り出した。
ずいぶんと離れていたはずなのに、その点は一瞬にして巨大な集団に溶け込んでいった。
「<キミの名はっ>て聞いたキミの名は?」ルカが浮きながらレオナルドに向かって言った。
そう言われてみれば、レオナルドはルカに名前を聞いておいて、まだ自分は名乗っていなかったことに気づいた。
「悪い、悪い」レオナルドは頭をかいた。
「ワルイワルイ? 変な名前」
「違う、違う」
「チガウチガウ? 変な名前」
「そうじゃなくて、オレの名前はレオナルド。レオって呼んでくれ」
「知ってる。レオ来る。マイ・ファーザー言ってた」
「えっ。オレがここに来ることことを」
「予言。予言」ルカは繰り返した。
レオナルドは予言という言葉に大きく動揺した。
確かに「本」に導かれて旅に出たが、森羅万象を著したと思われるその本の著者は、レオナルドがその本を手にすることすらも知っていたというのか。
ルカは羽ばたくのをやめ、一頭のヒツジの上にとまった。
カルボの背中だった。
ルカが背中に泊まるのと同時に、赤い羽の交渉人が飛び立った。
町の方向に飛んで行ったので、町の住民との交渉に向かったのかとレオナルドは思った。
しかし上空で大きく旋回し、町とは逆に向かいだした。
考えてみれば、交渉の余地などない。
レオナルドは王国へ侵入し、さらに奥深くへ進みたいと思っているのだから。
この先に起こることはまったく見えないが、赤い点は小さくなっても青い空にずっと見えていた。
「王国行こう」ルカはレオナルドに向かって言った。
ヒツジ飼いの冒険(第34話)へ続く
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*ヒツジ飼いの冒険は毎週日曜日12:00公開を予定しています