LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
意味を持たないVサイン

ナタリーは声を出さず、2本の指でVサインを作った。

悲しみの淵をずっと彷徨っていたので、声の出し方を忘れてしまっているようだった。

 

心配させたシンさんが悪いのかといえば、そうでもない。

ナタリーが勝手に心配していただけだ。

ここ数日、同じことを繰り返しているシンさんに対し、この日だけ特別に心配していただけのように思えた。

 

ただ、ナタリーにも言い分はあるだろう。

意味もなく一緒にいて欲しい夜だってあるに違いない。

 

俺もケイトもジュリーも、一言も喋らない夜を過ごしたので、すっかり声の出し方を忘れている。

ナタリーの意味を持たないVサインに、どう応じていいかわからない。

彼女の目を見つめてあげることもできず、2本の指先にピントを合わせた。

 

続く

次回の話/この島ではフツーの1日

前回の話/毎度毎度、朝帰りの男

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最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。