キング アーサーのここだけの話
崩れ落ちたナタリー
島唯一の小さな薬局にナタリーは飛び込んだ。
薬剤師らしき人物に症状を伝えるが、彼はまったく英語が通じていない様子だった。
無論、英語を理解したとしても、意識不明であることが伝わって、何の薬剤を投与すればよいというのだ。
それでもナタリーは文章を短めに区切り、ジェスチャーを加え、根気強く何度も言い換えては薬剤師に伝えた。
薬剤師はさっぱりわからないと両手を挙げた。
そのジェスチャーは、単純明快でナタリーにも俺にもよく伝わった。
見かねた俺は薬剤師に一言だけ告げた。
「マラリア」
マラリアに特効薬がないというのは、医療を学んでいる途中の、学生である俺でもよく知っている。
だから「マラリア」と告げたことは、薬剤師へはまったく無意味だが、ナタリーには大きなショックを与えたようだ。
薬剤師は首を横に振り、両手を挙げた。
この意味は、対処法がないというジェスチャー。
ナタリーは放心状態で店を出た。
俺とも一言も交わさず無意識で歩き、波打ち際にたどり着くと崩れ落ちた。
続く
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