LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
崩れ落ちたナタリー

島唯一の小さな薬局にナタリーは飛び込んだ。

薬剤師らしき人物に症状を伝えるが、彼はまったく英語が通じていない様子だった。

無論、英語を理解したとしても、意識不明であることが伝わって、何の薬剤を投与すればよいというのだ。

 

それでもナタリーは文章を短めに区切り、ジェスチャーを加え、根気強く何度も言い換えては薬剤師に伝えた。

薬剤師はさっぱりわからないと両手を挙げた。

そのジェスチャーは、単純明快でナタリーにも俺にもよく伝わった。

 

見かねた俺は薬剤師に一言だけ告げた。

「マラリア」

マラリアに特効薬がないというのは、医療を学んでいる途中の、学生である俺でもよく知っている。

だから「マラリア」と告げたことは、薬剤師へはまったく無意味だが、ナタリーには大きなショックを与えたようだ。

 

薬剤師は首を横に振り、両手を挙げた。

この意味は、対処法がないというジェスチャー。

 

ナタリーは放心状態で店を出た。

俺とも一言も交わさず無意識で歩き、波打ち際にたどり着くと崩れ落ちた。

 

続く

次回の話/古くから島に伝わる薬

前回の話/止まるほど遅くなった足

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最初の話/はじまりのはじまり

 

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。