キング アーサーのここだけの話
見るだけで効く薬
波打ち際で崩れ落ちたナタリーに、薬剤師からもらった丸薬を見せた。
シンさんに薬を届けられるまで、まだ少しばかり時間がかかる。
その前に、心の手当てをしなければならない急患が、俺の目の前にいる。
目に採光を失ったナタリーは、丸薬を見つめると、少しずつ生気を取り戻していった。
「何、それ?」誰の目から見ても薬であること理解できるだろうが、心を落ち着かせるため、あえて言葉に出しているようだ。
「島の特効薬だ」と俺はナタリーに告げた。
ナタリーが、マラリアについてどれだけ詳しいか、俺は知らない。
特効薬なんて、本当は存在しないことを知っているかなんて、見抜けない。
「治るの。その薬で、シンが治るの?」
その質問に俺は、演じ続けるしか手がなかった。
「うん、治る。ドン・ウォーリー。ドン・ウォーリー」
俺も薬剤師のひとつ覚えにフレーズに、どれだけ救われただろうか。
完全に精神が崩壊していたはずのナタリーが、丸薬を見ただけで治癒していくようだった。
続く
次回の話/一刻も早くバンガローへ
前回の話/薬は安全で衛生的なもの
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