キング アーサーのここだけの話
ビーチに建つバンガロー小屋
辛い時、悲しい時、腹の立つ時、弱くなってる時にいつも彼らの詩が心を解放してくれる。
「だから、友や」とシンさんは言った。
「彼らっていうことは、金子なんちゃらだけじゃないの?」
「ランボーもそうや。ふたりともかつてこのマレー半島を放浪してるんや」
それだから時間をかけて、ジャワ・マレーを旅することが好きなのだと。
ただ、同じルートを辿ったり、同じ方法で移動するのも面白くないので、彼らもやらなかっただろうカヤック旅をシンさんは多く場所で加えているとも話した。
俺はニコールの話から入っても、興味深い展開をするシンさんへ質問を繰り返すうち、いつも違う方向へと脱線してしまう。
なかなか根幹に近づくことができない。
ニコールはスクールホリデーが終わるので、2ヶ月の旅を終えバンコクから帰って行った、という話を聞き出せたのは、バンガロービレッジに着く直前だった。
彼女の名前は、もちろんニコールではなかった。
「似てるのは、髪と瞳の色だけやろ」とシンさんは吹き出した。
ニコール・キッドマンに似ているから、俺はニコールと心で呼んでいたと告げた直後の反応だ。
「でもまあ、どこかにその面影はあるか」と自慢げだったのには、すこし腹が立った。
ビーチに建つバンガロー小屋はボロいながらも適度な距離感を保ち、完全なるプライベートを確保していた。
すべてのバンガローはダブルベットが入っていた。
しかしヤシの葉で編まれた壁は薄かったので、そこに本当のプライベートがあるかわからない。
ここでは信じがたいほど物価が安く、すべてがバンコクの10分の1だったから、ドミトリーなんて存在しない。
シンさんと俺はもちろん別々のバンガロー小屋に泊まることになった。
続く
次回の話/生ぬるそうなコーク
前回の話/金子光晴って、誰?
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