LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
バンガローの交換図書館

バンガローの母屋には大きな本棚があり、シンさんはコークを片手にその前のテーブルを陣取っていた。

「あったで」と言い、シンさんは俺に1冊の本を手渡した。

 

その本は例の<いい旅を、と誰もが言った>だった。

ここを訪れた旅人たちは読み終えた本をこの本棚に置いていき、かわりにほかの1冊とエクスチェンジできる交換図書館のようなシステムになっている。

「シンさんが1年前に置いてった本なの?」

「そうや」

「よく残ってたね? 人気ない作家なの?」

「アホなこと言うな。片岡義男や」

 

あとからバンガローのオーナーに尋ねたところ、日本人客はこないので本棚にずっと残っていたとのことだった。

 

<いい旅を、と誰もが言った>には<彼はいま羊飼い>という章がある。

そしていま、シンさんはこのON THE HILL MAGAZINE<ヒツジ飼いの冒険>なる小説を綴っている。

このときからシンさんにその構想があったのかわからないが、この本はシンさんに大きな影響を与えていたのだと、いまにして改めて思う。

 

続く

次回の話/朽ちてしまいそうな木舟

前回の話/生ぬるそうなコーク

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最初の話/はじまりのはじまり

 

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。