キング アーサーのここだけの話
主人公は俺だ
風の通るバンガローの母屋。
ひと雨降ったお陰もあり、その大屋根の下は熱帯雨林性気候の南の島において、格別の涼しさを誇っていた。
とは言え、気温は夕暮れになっても30度以上ある。
俺はファンタグレープを、ナタリーはコークをオーダーした。
大屋根の下に置かれたケースから取り出しただけのボトル。
中身は気温に近い生ぬるさを誇っていた。
人肌ほどの温かさを持つボトルを咥えながら、ナタリーは聞いてきた。
「あれ、シンは?」
やはり、シンさんのことが気になるのだろうか。
俺は少しでも自分の方へ、その気を向けて欲しいと思い、主人公を俺に設定して話はじめた。
俺はシンさんと、まだ出会ったばかり。
バンコクにいた昨日、突然誘われてこの島にやってきた。
だから俺たちはそれぞれに旅を楽しんでるから、あいつが何をしてようが、俺の知ったことじゃない。
俺は大学院生で、夏休みを利用して旅を続けている・・・。
・・・魅力的な自分を語ろうとしたが、まったく武勇伝が浮かばない。
考えてみれば、ここへは自分の意思でついてきたが、何らかの思いがあっての行動ではなかったことに改めて気付かされた。
続く
次回の話/寝ずに舟を漕ぐ
前回の話/私は賭けた
「キング アーサーのここだけの話」は毎月3の倍数日に更新!