LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
それはクジラなのかサメなのか

マナー違反?

そんなどうでもいいようなダサいことで悩んでいるうちに、シンさんは一歩ずつ近づいてきた。

ここは野生の楽園だ。

取るか、取られるか。

 

狼は生きろ、豚は死ね。

どこかで聞いたセリフだが、そんな世界だ。

まったく隙を見せられないが、自分の生きたいように生きられるエリアと俺は確信していた。

 

現にこの島に誘ったシンさんは着いた途端、俺に構いもせず、自分の時間で暮らしている。

「グッドモーニング! こんな朝早くに起きたのか」と笑いながら、シンさんは近寄ってきた。

朝早くに起きたのではなく、俺とナタリーは一晩中喋っていて、ずっと起きていたのだ。

 

「ほんの少しの握力も残ってないや。もうベッドに行かなくちゃ」シンさんはビーチの途中でスキンカヤックを引きずる手を離し、倒れそうになりながら言った。

「一晩中漕いでたの?」ナタリーは聞いた。

「そう思うか?」シンさんは聞き返した。

 

無論、俺は首を横に振ったのに対し、ナタリーは縦に頷いた。

「ホエールシャークを追っかけてたら、方角を見失うところだった」シンさんはまったく信じ難いこと言った。

しかもホエールなのか、シャークなのか、一体どっちなんだ。

 

あとから知ったことだが、ホエールシャークとはジンベエザメのことで、この海域ではタイミングさえ合えば多々見ることのできる世界最大級の魚類だった。

「ファンタスティック!」ジンベエザメの存在を理解していたナタリーは目を輝かせた。

しかしシンさんはナタリーを寄せ付けず、まずは眠るのが先だと我々の元を離れていった。

 

「ホエールシャークを観たんだって!」ナタリーは目の前にいる俺より、観たこともないホエールシャークの話題に夢中になっていた。

そのときまだホエールシャークの存在を知らない俺は、それはクジラなのかサメなのか、一体どっちなんだと頭を抱えていた。

 

続く

次回の話/おとぎ話のような展開

前回の話/マナー違反の適用外か?

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最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。