キング アーサーのここだけの話
おとぎ話のような展開
昨夕、シンさんがバンガロー前のビーチから漕ぎ出したのを確かに見届けた。
ナタリーと話しながら、俺たち2人は目でずっと追っていたが、シンさんはすぐに点の存在となり夕闇にまみれて気配を消した。
「島を反時計まわりに漕いで、ハードリン沖から南下してサムイ島まで行ってきたんだよ。その帰りに海峡でホエールシャークに出会ってさあ」とシンさんは言った。
俺はサムイ島まで漕いでいったことに興味があった。
しかしナタリーは違ったようだ。
「どうやって見つけたの?」
「違う。ホエールシャークがこっちを見つけたんだ。カヤックの下に入ってきて、ずっと一緒にツーリングしてた」
「ゴージャス! ホエールシャークがついてきたの?」
「それも違う。ホエールシャークについていった。きっとどこかへ導いてくれてるんだと思って」
そんなバカなと俺は口を挟みたかったが、ナタリーの質問責めに、とてもその余地は見つけられなかった。
「ホエールシャークはどこへ連れて行こうとしたの?」
「わからないけど、サメとかから守ってくれてたんじゃないかな」
「カヤックの下にずっといたの」
「そうだよ。漕ぐ速度に合わせて泳いでくれてた。だからホエールシャークの案内する方向へ漕いでいったんだ」
「島は見えてたのか?」俺はやっと質問できた。
「ホエールシャークと出会った頃はぼんやりとね。それから西北西に向かって泳いでたから、帰りの方向に近いと思ってついていったんだよ」
「アメージング! ホエールシャークは帰る方向を知ってたの!?」またナタリーに主導権を握られる。
「出会う前から、もしかしたら、出発したときからずっと追ってきてたのかもしれない」
「きっと見守ってくれてたのよ。サメは夜行性だから、危険を察知してシンの前にあらわれたんだわ」
そんなわけない。
そんなおとぎ話のような展開が、この世の現実に存在するわけがない。
そう思いたかったが、思い込もうとすればするほど、シンさんの話に2人して魅了されていった。
続く
次回の話/監視に向くバンガロー
前回の話/それはクジラなのかサメなのか
「キング アーサーのここだけの話」は毎月3の倍数日に更新!