ヒツジ飼いの冒険
第29話 攻撃
あの本の著者が鳥であったとしても。
鳥が上手に絵や文字を書いたのだとしても。
この島の本土、つまりこの王国に足を踏み入れたことのある人間は皆無だとしても。
それが王国への侵入を断念する理由にはならない。
レオナルドの答えは明確だった。
あの著者が見た風景を、自分もこの目で見る。
そして感じる。
著者が感じたことと違っても、決して問題はない。
むしろ違って当たり前だ。
同じ時に同じものを見たのではない。
どのように条件が揃っていようと、時が違えば同じようには見えないし、同じようには感じられないはずだ。
「先に進ませてもらえないだろうか。オレはこの目で見たい。確かめたい。本に書かれていたことが本当のことであり、それが真理というものなのであれば、なおさら」レオナルドは交渉人との対話を続けた。
赤い羽の交渉人はそれでも頑なで、強情だ。
何度言おうが、何を語ろうが答えはバカのひとつ覚えだった。
「もう、お引き取りくださいませ」
「簡単には引き下がれない。この本がここまで導いてくれた。この本に書かれてることを確かめるために、進みたいんだ」
「もう、お引き取りくださいませ」
「ほら、ここに描かれているのは、キミじゃないのか」レオナルドは本を広げ、赤い交渉人に見せた。
「もう、お引き取りくださいませ」
赤い羽の交渉人はまったく動じない。
まったく動じていないのは、ヒツジたちも同じだった。
交渉人が引き返せ言っているにも関わらず、ヒツジは草を食みながら、何事もなかったようにジワジワと前進している。
ヒツジの背の上で立ち上がりながら、遠く離れた街の方角を見ているジャックが言った。
「どっちにしろ、手遅れだろ。もう攻撃がはじまってんだろ」
「そんな。こっちはまだ何もしてないっていうのに、攻撃するなんてひどいじゃないか」レオナルドは声を荒げたが、赤い交渉人は感情をまったくあらわさず冷静だ
「もう、お引き取りくださいませ」
「もしこの本を描いた人物・・・いや、鳥がまだここにいるなら会いたい。ルカ、キミのお父さんに会いたいんだ」レオナルドは交渉相手を変え、黒い羽の交渉人に向かって言った。
「マイ・ファーザーここにいない。マイ・ファーザーここにいない」
「キミのお父さんが描いたこの島を、もっと知りたいんだ。この島には生物がこの惑星で暮らしていく上で、大切なことが活かさているはずだ。それがなんであるか、学びたいんだよ」
赤い羽の交渉人と黒い羽の交渉人は目を見合わせた。
ヒツジ飼いの冒険(第30話)へ続く
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