キング アーサーのここだけの話
どこまでも遠浅の海
ほとんど波の立っていない、湖のように静かな海だった。
「どこまで行くの」ナタリーが尋ねた。
「とりあえずは、眠くなるまで進む」とシンさんは応える。
「眠ったら、帰れないじゃない」
「だから眠くなったら戻りはじめるよ」
ナタリーは心配そうにシンさんを見つめた。
スキンカヤックに跨り、シンさんは漕ぎ出す準備を進めていた。
「眠くなってから戻りはじめたんじゃ、遅いんじゃない」気の強そうなケイトが言った。
「じゃあ、日が沈む前に戻りはじめるよ」
「日が沈む前に、眠くなるってこともあるじゃない」ケイトは続けた。
「それもそうだね。じゃあ1〜2時間で戻る」シンさんは応えた。
「1〜2時間で眠くなったら?」ナタリーが小さな声で言った。
「どうにかなるよ」シンさんは静かに応えた。
「きっとどうにかなるのよ」穏やかそうなジュリーがナタリーの肩を抱いて言った。
どこまでも遠浅の海を、準備の整ったシンさんはスキンカヤックに乗らず、引っ張って進んで行った。
俺たちも見送るようについていった。
海は静かで波ひとつないが、時間が経つにつれ、陽気な気分と気だるさの波は入れ替わり立ち替わりやってきた。
続く
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