キング アーサーのここだけの話
魅力的な時間
どれだけの蚊に襲われたことだろうか。
アルコールに溺れたまま、夕暮れのジャングルをうろつくもんじゃない。
酔っ払って体温が高くなっているせいで蚊が集まってくるとも聞くし、蚊は二酸化炭素に寄ってくるとも聞く。
アルコールをたっぷりと帯びた呼気に蚊が誘われるとも聞いたことがあるので、酔っ払った5人が揃って歩いていたら、蚊にとってたまらなく魅力的な時間だったに違いない。
蚊を追い払いながら歩く様は、まるで踊っているようにも見えただろう。
ひと気のないジャングルの中だから成立する行為であって、街なかで踊りながら歩いていたら気が触れた集団と思われただろう。
やっとのことでジャングルを抜け出て、自分たちの簡素なバンガロー村へ戻ってきても、いまだ耳元では蚊の羽音が聞こえる。
正確には、耳鳴りとして残っているだけだが、それがどうやっても離れない。
すっかり暗くなったバンガロー村だが、その暗闇で5人は耳鳴りと戦い、しばし踊り続けた。
ひと気のない静かなバンガロー村で、本当によかった。
続く
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