LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
自由って、何だろう

じっとしていると、どこからか聞こえてくる羽音。

それは現実なのか、幻聴なのか。

 

ジャングルで襲われた蚊の群れによるものなのか、一昨日の晩に飲んだスピードポンチの後遺症によるものなのか。

「もう無理だ」と言って飛び出して行ったのはシンさんだった。

「ちょっと漕いでくる」とバンガローの床下に置いてあるスキンカヤックを海へと引きずり出した。

「いくら何でも暗すぎる」ナタリーは必死で止めた。

「昨日の夜は、もっと暗い時間でも漕いでいた」シンさんは説得に応じない。

「漕ぎはじめが暗すぎる」

「はじめる時間は関係ない」

接点を見出せない二人の言い争いが続く。

 

「何が不満なの」雫をいっぱいに貯めたナタリーの大きな目は、いまにも決壊しそうだ。

「自分の漕ぎたいときに、自由に漕げないことが不満だ」

本当は蚊の羽音のような耳鳴りを払拭したいがために、海に漕ぎ出してくるといったシンさんだが、話が自由へとすっかりすり替わっている。

 

「自由って、何よ!」声を張り上げるナタリー。

それに答えることなく、シンさんは漆黒の海へと漕ぎ出していった。

 

続く

次回の話/気の利いた冗談なんて言えない

前回の話/魅力的な時間

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最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。