キング アーサーのここだけの話
キース・リチャーズはバカだ。
その日はシンさんも、混沌とした世界に入り浸ったはずだ。
シンさんにはナタリーひとりしかいなかったけど、上下が歪むほどの体験をしたことは、手に取るようにわかった。
「宇宙から、地球を俯瞰したよ」俺は言った。
久々に使った日本語だった。
「スキンカヤックに乗ってれば、そんなんようけある」そうシンさんは言ったが、続けて「せやけどスキンカヤックだけやと、たどり着けん世界もある」と笑った。
脳は確かにあの日のことも、あの快感も覚えてる。
でも同時に、あの日が特別だったこともよく理解している。
あの日のあの場所に戻れないことも知っているし、戻ろうとも、戻りたいとも思わない。
キース・リチャーズはバカだ。
血液を全部入れ替えただけで、またもう一度、同じ日が戻ってくると思っている。
続く
次回の話/完璧に再現できないあの日
前回の話/上下が歪むほどの体験
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