キング アーサーのここだけの話
音の鳴らないヘッドフォン
次の日もまた、寂しそうに海を見つめるナタリーがいた。
「うまくいかないもんだな」俺は声をかけた。
「夜に出て行かなくなっただけ安心」
ナタリーはヘッドフォンを耳に入れた。
俺に余計な詮索をして欲しくないとのジェスチャーだろう。
電池切れで音が出ないことは、島に来た翌日から知っている。
島に到着したとき、港の商店街で乾電池を探していたが、あまりに高価なので買うのをやめた話を聞いたからだ。
音が出ないことを俺が知ってると、ナタリーもわかってるはずだ。
それなのに、<構って欲しくない>とはっきり言わず、そんなジェスチャーで返すのだろうか。
「面倒臭いオンナだな」と俺は呟き、踵を返した。
音の鳴らないヘッドフォンをしているナタリー。
俺の声は聞こえてても、日本語の意味はわからないはずだ。
それにしても以降、ものごとをはっきり言わない欧米人は、ナタリー以外会ったことがないのは事実だ。
続く
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