LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
音の鳴らないヘッドフォン

次の日もまた、寂しそうに海を見つめるナタリーがいた。

「うまくいかないもんだな」俺は声をかけた。

「夜に出て行かなくなっただけ安心」

ナタリーはヘッドフォンを耳に入れた。

 

俺に余計な詮索をして欲しくないとのジェスチャーだろう。

電池切れで音が出ないことは、島に来た翌日から知っている。

島に到着したとき、港の商店街で乾電池を探していたが、あまりに高価なので買うのをやめた話を聞いたからだ。

 

音が出ないことを俺が知ってると、ナタリーもわかってるはずだ。

それなのに、<構って欲しくない>とはっきり言わず、そんなジェスチャーで返すのだろうか。

 

「面倒臭いオンナだな」と俺は呟き、踵を返した。

音の鳴らないヘッドフォンをしているナタリー。

俺の声は聞こえてても、日本語の意味はわからないはずだ。

 

それにしても以降、ものごとをはっきり言わない欧米人は、ナタリー以外会ったことがないのは事実だ。

 

続く

次回の話/水平線より遠い先

前回の話/海を見つめるナタリー

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最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。