キング アーサーのここだけの話
俺のアイデンティティ
プラスチックのパックに入った弁当を買うと、すべてを食い尽くすでなく8割がた食べたら投げ出す。
少し時間が経てば、また弁当売りがやってくるので、「ああ、もうそんな時間か」と買う。
そして途中で捨てる。
そんな時間が流れているので、ホームはゴミだらけだった。
気持ちはわからなくもない。
いまここで過ごせる最高の暇つぶしは食しかない。
全部平らげれば、しばらくメシの必要はない。
だがそれでは時間が無限にあるように感じる。
なにかを得て、捨てる。
これぞモノの消費であり、時間の消費でもある。
とにかく弁当売りをスルーするようなマネごとはしたくなかったのだ。
不思議と古びたホームも、新しいゴミが散らかると、さほど古い駅には見えない。
新しいプラスチック容器の持つ輝きは魅惑とまでは言えないけれど、人を惑わすのに十分な能力を持っていた。
だが俺はというと、とてもゴミを投げ出す気にはなれず、陣取って座ったコンクリートの地べたの横に弁当のプラスチックパックを薄く積み重ねた。
毎回同じ、やたら辛い味付けのガパオ飯。
その辛さをやわらげる目玉焼きは火の通り過ぎた感があったが、それでも満足だった。
もちろん米一粒として食い残していない。
それが日本人たる俺のアイデンティティでもあった。
続く
前回の話/ゴミは多いが、クズはいない。
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