キング アーサーのここだけの話
雑多な景色の中での決意
俺はいうべきか、ためらっていた。
あたりには日本語を理解する人なんて誰もいない。
日本語の会話を聞かれてまずいことなんてなにもない。
それなのに、わずかにためらっている自分がいた。
こんな話をして、果たして理解してもらえるのだろうか。
俺は意を決し、数拍置いてから重い口を開いた。
「1日だけ、シンさんのチカラを借りたい」
「箸を持ち上げられるくらいのチカラしかないで」
「いや、違う能力は俺よりある。通訳して欲しいんだ」
「英語か」
「うん。英語で彼女に俺の思いを伝えて欲しいんだ」
「彼女って、誰や」
窓の外には、車両を見失い右往左往するナタリーが見え隠れしている。
ホームには人が溢れかえり、線路側からも列車に乗ろうとする人で溢れていた。
それは旅先ならどこにでもある、雑多な景色の中での決意だった。
続く
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