LOCAL,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
雑多な景色の中での決意

俺はいうべきか、ためらっていた。

あたりには日本語を理解する人なんて誰もいない。

日本語の会話を聞かれてまずいことなんてなにもない。

それなのに、わずかにためらっている自分がいた。

 

こんな話をして、果たして理解してもらえるのだろうか。

俺は意を決し、数拍置いてから重い口を開いた。

「1日だけ、シンさんのチカラを借りたい」

「箸を持ち上げられるくらいのチカラしかないで」

「いや、違う能力は俺よりある。通訳して欲しいんだ」

「英語か」

「うん。英語で彼女に俺の思いを伝えて欲しいんだ」

「彼女って、誰や」

 

窓の外には、車両を見失い右往左往するナタリーが見え隠れしている。

ホームには人が溢れかえり、線路側からも列車に乗ろうとする人で溢れていた。

それは旅先ならどこにでもある、雑多な景色の中での決意だった。

 

続く

前回の話/人で混み合ったホーム

「キング アーサーのここだけの話」は毎月3の倍数日に更新!

最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。