キング アーサーのここだけの話
穏やかな時間
乗客が一斉に集まったため、乗降口は完全に詰まった状態。
降車に通常の倍の時間はかかっているように思われた。
いや、感じたのはもっと長い時間。
このときはとにかく、ゆっくりと時間が流れた。
この時間が、終わらないでいて欲しいと思えるくらい。
最近では、とても幸せな時間だった。
「シンさんてさあ、一番最初に降りそうじゃない?」俺は思ったままに聞いてみた。
「そうか。そんな感じするか?」
「ええ〜。こんなときは、絶対に動かないよ」ナタリーは反論した。
「そうか。そんな感じするか?」シンさんの答えは変わらない。
「絶対に、動かない」ナタリーは譲らない。
「ときと場合によるとは思うけど、動かないだろうなあ」
シンさんは言ったが、ナタリーに気を使っての答えだろうか。
「うん。絶対に動かない。『そこで1位になっても、なんの意味もない』って、言うに決まってる」
シンさんなら、たしかにそんなこと言いそうだと俺は思った。
「そんなにひねくれてるかなあ」とはシンさんの答え。
「でもそうだな。そう考えるな」とシンさんは付け加えた。
我先に降車しようとする人の流れとはまったく異次元の動きが、同じ空間で生まれ、穏やかな時間がそこだけ流れていた。
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