LIFE,  TRIP

キング アーサーのここだけの話
穏やかな時間

乗客が一斉に集まったため、乗降口は完全に詰まった状態。

降車に通常の倍の時間はかかっているように思われた。

いや、感じたのはもっと長い時間。

このときはとにかく、ゆっくりと時間が流れた。

 

この時間が、終わらないでいて欲しいと思えるくらい。

最近では、とても幸せな時間だった。

「シンさんてさあ、一番最初に降りそうじゃない?」俺は思ったままに聞いてみた。

「そうか。そんな感じするか?」

「ええ〜。こんなときは、絶対に動かないよ」ナタリーは反論した。

「そうか。そんな感じするか?」シンさんの答えは変わらない。

「絶対に、動かない」ナタリーは譲らない。

 

「ときと場合によるとは思うけど、動かないだろうなあ」

シンさんは言ったが、ナタリーに気を使っての答えだろうか。

 

「うん。絶対に動かない。『そこで1位になっても、なんの意味もない』って、言うに決まってる」

シンさんなら、たしかにそんなこと言いそうだと俺は思った。

「そんなにひねくれてるかなあ」とはシンさんの答え。

「でもそうだな。そう考えるな」とシンさんは付け加えた。

 

我先に降車しようとする人の流れとはまったく異次元の動きが、同じ空間で生まれ、穏やかな時間がそこだけ流れていた。

 

前回の話/俺がいないあいだの密約

「キング アーサーのここだけの話」は毎月3の倍数日に更新!

最初の話/はじまりのはじまり

キング・カズと生年月日が一緒の1967年2月26日生まれ。外人は<アサタロー>と発音しにくいらしいので、海外では<アーサー>と名乗っていたら、親しい外人仲間が<キング・アーサー>とニックネームをつけてくれた。「アサタロウ」と日本で名乗ると「アソウ・タロウ?」と聞き間違いされることが多々ある。彼が幹事長のときは俺に<カンジチョー>のあだ名がつき、総理大臣になると<ソーリ>と呼ばれるようになったが、彼の総理大臣辞任後も俺の格下げはなく、いまでも<ソーリ>のあだ名は定着している。本業はコーディネーター。